LEO O HONOKAA  no1

風が吹くとき、不思議な気持ちになることがある。

誰かがそこにいるような。誰かが言葉をくれたような。

ワイ島の北、誰も知らない小さな町ホノカア。

僕がこのホノカアの町を気に入っている理由。

「ここではすべての思いは風になるらしい。」

僕は誰かの風になれるかな。



「夜の海」

ホノカアという町で僕は映写技師として働いている。
小さな小さな映画館。
古くて古い映画館。

1942年製のこの古い映写機の音が、僕は好きだ。
誰かの熱心な夢や意地汚い向上心やくだらない台詞や
素晴らしいキスやすべてが光を当てると映画になる。

いい音だ。

フリッカーというフィルムの横の溝を
この偏屈な映写機が気持ちよく駆け抜ける。
ワイ島の波の音に似ている。
夜の波の音に。

誰もいない映画館でこっそり光をきって
暗闇のなかでひとりこの音に浮かんだことがある。

夜の海は、深く、暗く、遠く。

僕はどこにもいけないまま自分の指先も見えない夜のなかで
ただ浮かんでいた。

映画のない映画館は、夜の海。

知らなくてもいいことは知らなくてもいいんだよ。
何もかも知ろうとすると知らないことのその多さに悲しくなるだけだから。
夜の海みたいに。
知らなくちゃいけないことは、いつかちゃんと知るときがくる。
朝みたいに。

映画館で働くポップコーン売りのジェームスがそういう内容のことを
僕に言った。
気がした。

ワイ島の北、ホノカアという忘れられた町で僕は忘れたくないものを知る。
2009.01.03 (Sat.) 14:55